つくる人、つなぐ人、つたえる人──仕事の立ち位置は違っても、それぞれの言葉やまなざしに宿るのは、ブランドに対する深い想い。「VOICES from INSIDE」では、TSUCHIYA KABANに携わる「人の声」を通して、ブランドの中の人たちの想いに触れていきます。
今回は、TSUCHIYA KABANの生産責任者・小林へのインタビューも交えながら、「トーンオイルヌメ」シリーズのメイン素材「オイルヌメ革」の魅力を、実際の製造工程とともにご紹介します。
vol.2
TSUCHIYA KABANの生産責任者に聞く
「オイルヌメ革」が愛される理由
vol.2
TSUCHIYA KABANの
生産責任者に聞く
「オイルヌメ革」が愛される理由
PROFILE
小林 誠也
製品や素材の品質管理を担当する、TSUCHIYA KABANの生産責任者。製品の仕上げに欠かせない「コバ液」の開発にも携わるなど、その業務は多岐に渡る。
POINT 01
「オイルヌメ革」ならではの製造方法
人の目で厳選する上質素材
ユネスコの世界文化遺産にも登録されている、国宝・姫路城がそびえる兵庫県・姫路市。TSUCHIYA KABANのオリジナル素材「オイルヌメ革」は、日本有数の皮革生産地としても知られるこの地でつくられています。
その姫路市内を流れる市川沿いに工房を構える金俊製革所では、植物タンニンだけで鞣されたナチュラルな風合いのベースヌメ革(クラスト)に加脂や染色、シボ付けなど数々の加工を施しています。
「『オイルヌメ革』にはクラストの中でも最上質のものを用いるため、一枚一枚革の表面を濡らしながら、タンナーの職人がチェックしています」と語るのは生産責任者の小林。表面を濡らすのは、乾いた状態では見えにくい傷や汚れなどを見やすくするためで、経験豊富な職人の目で厳選されたクラストのみが、「オイルヌメ革」になるのだといいます。
柔らかさと個性を生む工程
「オイルヌメ革」ならではの魅力は、独特の風合いと、手や肩にしっくりなじむ柔らかさ。この2つの魅力を生み出しているのが、素材名にもあるオイルです。加えられるオイルの量は、一般的な革素材のなんと3倍。そのような大量のオイルを、一体どのようにして革に浸透させているのでしょうか。
「大きなドラムの中にクラストを入れ、そこへ水とアニリン染料と一緒にたっぷりの植物性オイルを加えて回転させます。こうすることで染料と一緒にオイルが浸透していくのですが、オイルが革の繊維をほぐすため、革が中で攪拌されることでさらに柔らかさを増していくのです。さらに、ただ柔らかいのではなく、革らしいコシや張りがしっかり残るようにバランスの良い仕上がりにするのために、オイルの配分や水の温度などを細かく変えています」
さらに、製品によって多彩な表情を見せるシボも「オイルヌメ革」ならではの魅力。圧力を加えて模様を付ける型押しとは違い、シボは一枚一枚の革の個体や部位の差によって自然に生まれるため、同じものは世に二つとない自分だけのものと感じられるのです。
「革にシボを付ける工程は『空打ち』と言って、ドラムに革だけを入れて回転させることで細かなシワ模様を刻み付けます。内部には何本ものダボ(木の突起)が取り付けられており、これにより回転するたびに革が引っ掛かり落下したりを繰り返すため、効果的にシボが生じるようになっています。さらに、『空打ち』の工程で何度も揉まれることで、革がさらに柔らかさを増すというメリットもあるんです」
職人技による絶妙なバランス感
最後に、ここまでの仕上がり具合を見て、再度染料とオイルを革の表面に浸透させる必要があります。ここで活躍するのがスプレーマシン。革を流し込みながら回転スプレーで表面に染料とオイルを同時に吹き付け、両者を隈なく、しっかりと革表面に定着させます。これを2回繰り返すのですが、革の仕上がりやその日の気候などでマシンの細かな調整が必要なのだそう。
「しっかりとオイル感がありながら、ベタベタもしすぎない。そんな、『オイルヌメ革』ならではの絶妙なバランス感がキープできるように、オイル・染料の配合から水の温度、マシンの諸操作を調整するのが本当に難しいんです。職人の経験に基づく判断にゆだねる部分が大きいですね」
POINT 02
SDGsへの取り組み
「オイルヌメ革」の製造を担う金俊製革所は、この地方独自の白鞣革(しろなめしがわ)として有名な「姫革」の製造にルーツを持つ老舗タンナーです。
近年は製革の際の節水や化学物質を含む排水の厳格な管理、Co2対策として燃料を石油からガスへ切り替えるなど、自然環境に配慮した取り組みを強化。国産原皮は契約屠畜場から仕入れるなど、高レベルのトレーサビリティも確保しています。併せて、安全性の高い製造機械の導入や労働環境の向上など、従業員に配慮した取り組みも率先して行っています。
拠点とする姫路市も皮革産業を伝統的な地場産業と捉え、官民一体となって環境保全に取り組んでいます。特に皮革産業で最大の懸案である排水処理の問題を解決すべく、市の主導により皮革事業者専用の下水道と前処理場を設置。これにより、かつては排水で汚染されていた河川が透明度を回復し、水質も大幅に改善したといいます。こうした環境保全への先進的な取り組みが、姫路の伝統的な皮革産業を支えているのです。
POINT 03
極上素材とクラフツマンシップの共鳴
"理想の鞄"を追い求めて
一般的な革素材よりも、手間暇かけてつくられる「オイルヌメ革」。その誕生の背景にあったのは、「TSUCHIYA KABANの顔となる、“革の魅力をたっぷりと楽しめる革”をつくりたい」という思いです。
本来の自然な革の魅力は、一枚一枚に個体差や部位差があり、使い方に合わせて色もつやも表情も変わっていくところ。さらに、“柔らかいヌメ革”であれば、かっちりとした箱型だけでなく、どんな形の鞄もつくることができる。革の個性が感じられる素材で、性別や世代、スタイルも問わず愛用してもらえるデザインの鞄をつくりたい——そんな強い思いが社内にあったといいます。
その思いをタンナーに伝え、オイルの量など数々の試行錯誤の末に生まれた「オイルヌメ革」。ところが、鞄職人たちは、その柔らかさゆえに最初は扱いに悪戦苦闘していたといいます。オイルがたっぷりと入っている分だけ他の革より伸びやすく、裁断した後も寸法が落ち着くまではしばらく寝かせる必要も。さらに、パーツが伸びないよう、つくりや芯材をはじめとする見えない細部での工夫を重ねるなど、試行錯誤を重ねることにより、「オイルヌメ革」を扱う技術やノウハウが磨かれていきました。
こうして生まれた、独特の風合いと表情豊かなシボ模様を持ちながら、見た目も手触りも柔らかいという"理想の鞄"。TSUCHIYA KABANを代表するシリーズとなった「トーンオイルヌメ」は、私たちのものづくりへの思いである「時を超えて愛される価値をつくる」を体現しつつ、時代に合わせてつくりやデザインをアップデートしながら、これからも進化を続けていきます。







